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身体が動かない! うつの症状は気持ちの落ち込みだけではない

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精神障碍者

私は精神障碍者手帳を持つ者です。うつ病歴20年を過ぎました。手帳を得たのは2000年のこと。うつ病の診断が出てから5年後のことです。その頃には最初に診断されたうつ病だけでなく、パニック障碍、睡眠障碍、摂食障碍、社会不安障碍を併発していました。

しかし、私は「精神障碍者になろう」と思ってなった訳ではありません。

きっと、ほかの精神障碍を持つ人もそうだろうと思います。誰も目指して障碍者になる訳ではありません。実に当たり前のことを言いますが、障碍者でない人はこれを忘れがちです。

私はこうして精神障碍者になった

精神障碍者手帳を交付される数箇月前、私は会社員でした。転職したばかりで、だけど仕事も社内の人たちも私は気に入っていて、機嫌よく勤めに出ていました。仕事も早く憶えられて、毎日進んで残業して、充実した日々を過ごしていました。

転職して1年半ほど経った或る朝、私は起き上がれなくなりました。突然のことです。

水泳を考えてみてください。50mプールを10往復ほど全力で泳いだのちに水から上がると、浮力がなくなるのと疲労感とで身体がずっしりと重く感じるでしょう。その重力と怠さを一身に受けたような重さが、目覚めた途端に身体にあるのです。

その重みに加えて、気力の満たなさ。「えいっ」と気合を入れて身体を起こそう、という気力が出ないのです。「えいっ」という声がまず出ない。腹筋に力が入らない。

その日は平日。仕事に行かねばなりません。早く起きなければ遅刻してしまいます。気持ちは焦るのですが身体は動かない。これでは部屋を出ることすら儘なりませんから出勤は諦めるにしても、無断で欠勤する訳にはいきません。何とか、何とか動こうとして、起き上がれないまでも身動ぎして這いずって、やっとのことで電話を置いてある場所まで辿りついて、会社に連絡を入れました。

「すみませんが、今日は休ませてください」

電話を終えるとほっとしました。全身が脱力しました。そこからまた動けません。動けないので、その場で横たわったまま時間を過ごしました。そのうち尿意がはじまりますが、トイレに立つことができません。時間だけが過ぎていきます。

午が過ぎれば微かながら空腹感が出てきますが、何か腹に入れるには起き上がらなくてはなりません。食欲より身体の重さの方が大きくて、ずっと床に横たわったままです。そうして1日が過ぎていきます。

ずっとこのままなのかと思えばそうではなく、時間が経つにつれ少しずつではありますが、身体の重さはやわらいでいきました。日が沈む頃には何とか身体を起こすことができて、トイレにも行けました。夜半には概ね当たり前に動けるようになったので、「明日は出勤できるかな」と思いながら眠りました。

ところが翌日も同じことが起こりました。身体が重くて起き上がれません。翌日だけではなく翌々日も、さらにその次の日も、同じように起き上がれません。

このままでは会社に迷惑がかかるし、収入がなくなって生活できなくなる。大変心細く、また焦りました。この不調に前兆があったかと言えば決してそんなものはなく、突然のことでした。起き上がれなくなる前日までは、当たり前に仕事に出掛けていたのです。

職場で厭なことがあったか――ありません。仕事に出るのが厭か――言うほど厭ではない。では、日常生活に何かストレスが――一人暮らしの身で、懐が常に寂しい以外は特に不自由はありません。

このとき私は既にうつ病と診断されていて服薬していましたから、精神的な要因かと思い原因を探りましたが、思い当たりません。身体の方も、その年の健康診断で異常は認められず、健康そのものです。何故このようなことになっているのか、検討もつきません。

持病と言えばうつ病だけでしたから、ここに原因があるのかもしれない。そう予測を立てて主治医に相談しようと考えつきはしましたが、動けないのでそれも叶いません。
原因が判らないから対処のしようもなく、私はほとほと困りました。

どうしていいか判らず、30歳間近(当時)の男性が恥ずかしいことですが、泣きながら「いのちの電話」に電話をかけました。どうしたらいいのかまるで判りません。電話が苦手な私が自発的に電話をかけたのは、誰かに何か指針を与えて貰いたかったからでしょう。端的に言えば「助けて」ということを言いたかったのだと思います。


仕事にも病院にも行くことができない。どうすれば。いのちの電話に訴えました。いえ、縋ったと言った方がいいでしょう。電話の向こうの人はこのように答えました。
「病院に行ってください」
身体が動かせなくて病院にも仕事にも行けない。そう言っているのにいのちの電話の人は「病院へ行ってください」を繰り返しました。それを5回聞いて、私は電話を切りました。

欠勤が続き、身体が動くようになったとしてももう出勤しづらい雰囲気になってきた頃、私は身体の具合にパターンがあることに気づきました。目覚めたときが最も身体が重く、気力もない状態で、時間経過とともに僅かずつではありますが、身体の重さがましになっていくのです。身体の重さがなくなれば気力に欠けても何とか動けます。

或る日の日暮れ頃、いつもよりも動きやすかったそのとき、「いましかない」とかかりつけの病院に行って相談しました。「身体を動かせなくて仕事に行けないんです、どうすればいいでしょうか」と。

主治医の答えはこうでした。

「あなたは仕事に行けるから、行かなきゃ駄目。」

ここでも私の主訴は受け付けられませんでした。途方に暮れた私は、知り合いが通っているという精神科がかかりつけの病院の近くにあると聞いて、そちらを受診しました。
はじめて行った病院で、かかりつけの病院で相談したのと同じ内容を訴えました。そうすると医師は言いました。

「直ぐに入院しましょう、病院を手配します」

そこは町の小さな病院だったので、入院施設がある病院に連絡をして病室を確保してくれると言うのです。けれども私はそのとき転職して間もなく、また欠勤も続いていたし、入院できるほどの金銭は手許にもそのほかの場所にもありませんでした。私がそのように言うと、医師はこう答えました。

「生活保護があります。保護を受けてでも入院してください」

このような次第で、この3日後に私はふたつ街を越えたところにある病院に入院しました。入院の期間は未定とされていて、いつ退院できるか判らない状態で病院に入り、最終的には半年間、院内で生活しました。この間に病院のソーシャルワーカー氏が気を利かせて精神障碍者手帳の申請手続きをしてくれて、現在手帳所持者であるのです。

精神障碍者になってからの生活

さて、この半年の入院で私はまったく治ってしまったかと言うと実はそんなことはなく、退院した半年後には再入院して、また半年を病院で過ごし、やっと一人での生活に戻ることができたのです。

気分の落ち込みや食欲の減退など、如何にもうつらしい症状以外にも、うつの症状はあります。このときの私のように、身体症状のみが出る場合もあるのです。身体の調子が思わしくないときは病院で早めに受診してください。「早めに」というのは「自力で病院へ行けるうちに」ということです。自力で動けなくなったら私のように病院へ行こうにも行けなくなってしまいます。

身体の不調に気付いて受診したら、稀れに身体の何処にも異常がないことが判る場合があります。その場合は精神科も受診してみることを勧めます。もしかしたらその不調は、精神面に負荷がかかって起きたものかもしれません。その場合の治療は精神科を頼るのが最も適切です。

精神科は怖いところではありません。医師と患者の1対1で数分間という短い間、話すだけです。大抵の精神科の医師はやわらかい話し方をしてくれます。医師は診察に必要なことを問うこともありますが、医師の問いに答えるだけではなく、自覚している症状を詳細に話すといいでしょう。もし、口を聞くのがしんどい状態だったら、紙に書き出して持参すれば伝えやすいです。

早いうちに受診しておけば、私のように「直ぐに入院」ということにもならずに済むでしょう。もしかしたら短期間の服薬で回復してしまうかもしれません。どんな病もそうなのですが、早期発見早期治療が大切です。

それには、自身の不調や病気に対して、幾分臆病であるくらいがいいのです。誰よりも自身を大切にしてください。

(執筆 衛澤創(えざわそう))

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衛澤創(えざわそう) by
精神障碍者で虐待サバイバーで性同一性障碍でゲイというクワドラブルマイノリティ。
うつ病・パニック障碍・睡眠障碍・摂食障碍・社会不安障害を併発して精神障碍者3級。
ものごころついた頃から27歳で実家を出るまでほぼ日常的に実父の暴力に晒され、実家を出てからは15年かかって性別適合手術をすべて済ませた。
中5年はうつ病が重篤な状態になり、つごうまる1年と少しの入院を含む何もできなかった期間。もう大変。
現在は病状も落ち着き、ライター兼作家として地味に活動中。
主な仕事:
ホンシェルジュ「衛澤創の本棚」
DIVERSITY STUDIES「SOU!ルーム~衛澤さんのちょっとええやん~」
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