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障害者差別への対処方法は一つではない――英国の「タクシー乗車拒否」ニュースから考える

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障害者 乗車拒否

車椅子ユーザーのライター、桜井弓月(さくらいゆづき)です。

日常生活の中で差別(もしくは差別らしきもの)を目撃した場合、皆さんなら、どうしますか?

差別している人に抗議する、差別されている人の心に寄り添って話を聴く、双方の言い分を聴いて妥協案を模索する、見て見ぬふりをして通り過ぎる……様々な身の振り方が考えられますが、どれが正しくてどれが正しくないと簡単に言い切ることはできません。「唯一の正しい対処」というものが存在するわけでもないと思います。また、被差別者が目撃者に望むサポートや援護射撃の方法も一つではなく、「こうしてもらえると嬉しい」は、人や状況によって変わります。

先日、ネットで海外のニュースを紹介した記事を読み、「私が当事者だったら、何を望むか」を考える機会がありましたので、紹介させていただきます。

車椅子ユーザーにまつわる英国の「タクシー乗車拒否」ニュースの概要

私が目にしたのは、イギリスのニュースを伝える記事です。

シャノン・マーレーさんという車椅子ユーザーの女性がタクシー運転手に乗車を断られ、列に並んでいた人たちがそのタクシーに乗ることを拒否した、という内容でした。

記事の一部を引用させていただきます。

タクシーの運転手は、シャノンさんが車椅子利用者だと知ると大声で「車椅子はダメだ!」と繰り返した。シャノンさんは運転手に、車椅子が折りたためることを説明したが、運転手は「ダメだ、トランクに載せることはできない」と主張し、大型タクシーが来るまで待つように指示したのだ。
(中略)
やがてその運転手は、シャノンさんの後ろに並んでいたビジネスマン風の男性に「乗って」と声をかけた。だが男性はこのタクシーへの乗車を拒否した。
男性はシャノンさんに起こったことを見ていたため、心無い運転手の車には乗りたくないと伝えた。すると男性の後ろに並んでいた人たちも次から次へとそのタクシーの乗車を拒否したのである。シャノンさんは名前も知らない7~8人がそのタクシーに対してボイコットしてくれたことに深く感動し、自身のツイッターで感謝の気持ちを述べている。
(中略)
シャノンさんはこのタクシー運転手に乗車を拒否された後、次に来た全く同じ車種のタクシーに乗車しホテルに着くことができたという。

引用【海外発!Breaking News】車椅子女性の乗車を拒否したタクシー運転手、列に並ぶ人たち次々と「乗りたくない」(英)―Techinsight 

私(車椅子ユーザー)なら、現実的な解決のために手を貸してほしい

列に並んでいた人たちがこぞってタクシーへの乗車を拒否したことは、差別に抗議・抵抗する有効な手段の一つだと思います。何より、当事者女性がとても感謝している点で、彼らの行動は「良かったこと」であり、「成功だった」と言えるでしょう。ですから、私は、タクシーへの乗車を拒否した人々の行動に異を唱えるつもりはまったくありません。

ただ、「もし私がタクシー運転手に断わられた当事者だったら」と考えると、正直なところ、別の手助けのほうが嬉しいなあと思ったのです。

ここまで大ごとにされるよりも、例えば、「車椅子をトランクに積めるかどうか、一緒にやりますよ」と運転手に言って手を貸してくれるほうが、ありがたいです。あくまでも「私なら」です。


差別に抗議の声を上げ、差別に気付いてもらうことは重要です。けれども、私がその場の当事者なら、差別に抗議することよりも、いま身に降りかかっている具体的な問題をとりあえず解決したいと願うと思います。「いまタクシーに乗って目的地に行きたいのに、乗せてもらえなくて到着が遅れる」ということが具体的で切実な問題です。その問題を現実的に解決するために周囲の人が手を貸してくれたら、本当に助かります。

周囲の人たちが手を貸すことによって、この運転手の態度が変わる可能性もあり得ます。手を貸す人がいれば、運転手が乗車を承諾した可能性も0ではないと思うのです。

周囲の人たちが車椅子をトランクに積もうと試みる姿を見て、運転手は何か気付きを得るかもしれません。工夫すれば車椅子を積めることを学ぶかもしれませんし、一人では対応が困難で面倒でも、周囲に協力を求めればうまくいくことがあると実感できるかもしれません。自分の言動を恥じて、運転手としての職責に立ち返るかもしれません。

「タクシーに乗れなくて目的地に行けない」という不利益を車椅子ユーザーに理不尽に押し付けていることが、このタクシー乗り場で起こった差別です。もし、周囲の温かい協力によって運転手が態度を改めるとしたら、告発や敵対する前に、差別が解決できたことになります。さらに、運転手がこの経験を活かしてその後の仕事ぶりを改善すれば、いっそうの差別解消につながります。

もちろん、運転手が何も感じず、かたくなに車椅子ユーザーを拒否し続けた可能性も、大いにありますが。

嫌な空気が耐えがたい

また、まったく別の観点で私が気になったことがあります。

それは、「差別に憤りを感じてボイコットした全員が、本当に自分の意思でそうしたのか」ということです。

お国柄の違いもあるのでイギリスの人たちについて安易にどうこう言うことはできませんが、もしこれが日本だった場合、その場の空気に押されて半ば仕方なくボイコットする人もいるのではないでしょうか。本当は、車椅子ユーザーを拒否したタクシーに自分が乗って、さっさと目的地へ行きたいと思う人だっているはずです。運転手と車椅子ユーザーが揉めたり他の人たちがボイコットしたりすることで列が滞り、迷惑に感じる人もいるかもしれません。

差別への憤りや上記のような本音も含めて、タクシー乗り場には嫌な空気が流れることでしょう。それは決して車椅子ユーザーの責任ではないのですが、私だったら、どうしても自分の存在が一因であるように感じてしまい、耐えがたいだろうなあと想像してしまいます。

そういうこともあって、抗議の声の前に、まずはその場で起きている問題を解決するために手を貸してもらえる方が嬉しいなと、「私は」思うのです。

障害者差別の解消に絶対的な正解はない

ここまで書いてきたことは、あくまで桜井弓月個人の思いであって、「車椅子ユーザーならこう考える」というものではありません。何が正しくて何が間違っているということを言いたいのでもありません。
大切なのは、差別を解決する方法は一つではないし、「唯一の絶対的な正解」はないということです。何よりもまず差別を告発・抗議することが必要な場面もあるでしょうし、声を上げるより文字通り手を貸すことが有益な場合もあります。

タクシーへの乗車を拒否した人たちの行動が賞賛に値するものだからこそ、あえて別の考え方もあると提示してみたかったのです。

(執筆 桜井弓月(さくらいゆづき))

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桜井弓月(さくらい ゆづき) by
脳性麻痺の車椅子ユーザー、である前に、女です。
自称、エセ物書き。のらりくらり生きてます。
方向音痴にもめげず、電動車椅子で町なかを暴走……いや、しとやかに徘徊中。
数年前に流行った動物占いは「笑いながらキツイことを言うトラ」。当たっているか否かはナイショです。