皆さん、こんにちは。梅雨生まれだけど梅雨嫌いな、桜井弓月(さくらいゆづき)です。
以前の記事では、脳性麻痺の特徴について書きました。その中でも少し触れたとおり、脳性麻痺は進行性の疾病ではありませんが、「二次障害」というものがあります。
脳性麻痺では、麻痺の原因となった脳の損傷が、時間の経過とともに広がるようなことはありません。これが「進行性ではない」の意味するところです。しかし、脳の状態が変わらないからと言って、体の状態も一生変わらないとは限りません。脳性麻痺になったときや、診断されたときにはなかった体の不具合が、成長過程や加齢とともに現れてくることがあります。これが、脳性麻痺の二次障害です。脳性麻痺者の全員に必ずしも起こるわけではありませんが、脳性麻痺者ができるだけ長く充実した日々を過ごすために、当事者や家族、支援者が二次障害について知り、日頃から留意しておくのが良いと思います。
というわけで、今回は、脳性麻痺の二次障害について取り上げます。
脳性麻痺の二次障害には、次のようなものがあります。
・関節や足の変形、脱臼
・側彎(そくわん):
背骨が左右に曲がり、ねじれてしまう症状です。腰や背中に痛みが生じ、側彎が重度になると、肺活量の低下による呼吸機能障害を引き起こすこともあるそうです。
・頸髄症:
頸椎(首の骨)が変形したり頸椎椎間板ヘルニアが起きたりすることで脊髄(神経)が圧迫され、首や腰などの痛み、手指のしびれなどが生じます。これにより、もともとあった運動機能障害がさらに重くなって、自分でできていた日常生活動作にも支障をきたすおそれがあります。
この他にも、慢性的な腰痛や手足の痛み、体重の増加、体力の低下などが、脳性麻痺の二次障害として挙げられます。また、日常生活に支障が出るほどでなくても、「何となく以前より緊張が強くなった気がする」とか、「以前と比べて手が上がりづらくなった」と感じるケースもあります。
以前書いた記事で、脳性麻痺には「体の緊張」「不随意運動」「きれいな姿勢を保つことが難しい」といった特徴があると述べました。このような脳性麻痺の特徴は、二次障害と密接な関係があります。
例をいくつか挙げてみます。ただし、緊張や不随意運動があるからと言って必ずしも以下のような経過をたどるわけではありませんので、その点はご理解ください。
・例その1
体の過度な緊張から、体がねじれたり大きく反ったりする⇒左右対称の姿勢を取れない⇒側彎
・例その2
動作の際に首を大きく動かさなければならない、もしくは頭や首に不随意運動が起こる⇒首への大きな負荷⇒頸髄症
・例その3
歩くときに足の裏全体が地面につかず、足が外側か内側に傾いてしまう⇒足首が不自然に曲がった状態で体を支えることになる⇒足を痛めたり変形したりする
・例その4
常に体が傾いた姿勢⇒筋肉の付き方が左右でアンバランスになる⇒体を支えることがさらに難しくなる⇒腰痛
体の緊張や不随意運動などは個人差がありますが、どちらも、たいてい体に負担がかかります。アスリートやミュージシャンが激しいプレイによって首を痛めたという話を聞くことがありますが、不随意運動によって首の動きが大きく速くなる脳性麻痺者にも、同じようなことが起こり得るのです。
また、運動量の少なさが体重増加や体力低下をまねくことは、健常者であっても一般的に言えることですね。自発運動が難しい麻痺者は、なおさらです。
障害があってもなくても、毎日を生き生き過ごしたいと願うのは当然のことで、障害があるならあるなりに、残存能力を維持しながら日々を楽しみたいものです。もともとの障害以外に不具合が生じたり、自分でできていたことができなくなったりするのは、肉体的にも精神的にもつらいことです。そのようなことは、できれば避けたいですし、二次障害が出た場合はなるべく重症化させずに、うまく付き合っていきたいところです。そのためには、脳性麻痺当事者や周囲の人たちが、二次障害について早い段階から知識を得ておくことが大切だと思います。予防のためには、まずは「知ること」ですね。
実は、脳性麻痺にはいくつかのタイプがあります。緊張が強いタイプ(痙直型)、不随意運動が激しいタイプ(アテトーゼ型)、体のバランスが取れないタイプ(失調型)などです。複数のタイプが重なっている人もいます。タイプによって、起きやすい二次障害が異なりますので、自分がどのタイプか知っておくことも必要でしょう。どのような二次障害のリスクが高いか知っていれば、対策が可能です。姿勢を改善するために補装具を使用するとか、不随意運動をやわらげるために医療的な処置をするとか。
それから、私が思うに、二次障害の予防のために大切なのは「無理をしないこと」です。
例えば、自力で歩くことができるとしても、通学や通勤のために時間をかけて長い距離を毎日歩くことが大きな負担となっているなら、必要に応じて車椅子の導入を検討した方がいいかもしれません。自分で歩けるうちは歩きたいと思うのは当たり前のことですが、頑張りすぎることで、かえって歩けなくなってしまっては元も子もないですよね。自宅から職場までは車椅子で行って、職場内では歩くという方法もあります。
また、体に負担がかかる無理な姿勢で長時間働いたことで、大きな二次障害が出て、体が動かなくなってしまった例もあるようです。日常生活に支障が出て自分が苦しむことになる前に、体に無理のない職場環境を整えてもらうとか、勤務時間を少し短くするなどの対策が必要でしょう。
自分の体や将来のために無理をしないこと、少し楽をすることは、決して後ろめたいことではありません。むしろ、自分の体を大切にしているという意味で、誇ってよいことだと思います。
ここまで、さも詳しいかのように書いてきましたが、私が脳性麻痺の二次障害について知ったのは、実はほんの数年前のことです。自分が脳性麻痺者であるにもかかわらずです。
幸い、私はこれまで体の状態が大きく変化することなく過ごしてきましたので、二次障害について知らなくても困りませんでした。大人になってからは定期通院もしていませんでしたので、知識を得る機会がなかったということもあります。しかし、周囲から二次障害という言葉を聞くようになり、自分でも「何となく前より緊張が強くなってきた気がする」などと、気になることが出てきました。
そこで、遅ればせながら、脳性麻痺の二次障害について情報収集するようになりました。その中で大変勉強になったのが、『成人脳性マヒ ライフ・ノート』(万歳登茂子、脳性マヒの二次障害実態調査実行委員会 2013年 クリエイツかもがわ) です。この本には、脳性麻痺の二次障害に関する実態調査報告や当事者の体験談、医療現場や就労現場での取り組み、二次障害発見のための自己チェック方法などが載っています。当記事の執筆にあたっても、参考とさせていただきました。脳性麻痺の二次障害についてまとめられた文献がほとんどないなか、貴重な資料と言えます。今後、このような脳性麻痺の二次障害に関する情報が増え、当事者や家族、医療・福祉関係者に二次障害の知識が広まっていくと良いなあと思います。知識や情報は、脳性麻痺者が自身の能力を発揮して生き生きと過ごすための手助けとなりますからね。
(執筆 桜井弓月(さくらいゆづき))