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知的障害者Aさんのオリジナルコミュニケーション術

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知的障害 コミュニケーション

初めての場所で、全く面識のない人に話しかけることは、結構勇気が必要です。TPO(時間、場所、状況)を考えて話題選びも慎重になります。

知的障害を持つ方も同じです。人と話したい、関わりたいと強く思っています。

私が出会った知的障害者のAさんも、オリジナリティ溢れるTPOで会話の機会をつくってくださいました。

知的障害者Aさんのオリジナルコミュニケーション術

Aさんは重度知的障害者です。家庭の事情で1年程ショートステイを利用し、開所と同時に入所されました。ショートステイの経験もあり、入所施設への適応は特に問題はありませんでしたが、話しかけにはほぼ無反応でした。以前の施設(ショートステイ)では、時々会話もあったと聞いていましたが言葉も発せず、時間や場所に関係なく自慰行為にふけってしまう。時々壁や天井を見て、怒ったような表情で声にならない文句を言っている、まるで別世界で生きているようでした。

施設行事で写真を撮ることになり、「こっち向いて」と声をかけるとカメラの方を向く。「ピースして」の声かけには指でしっかり「ピース」。でも、目だけは横を向いたまま。こちらの要求は理解しているようですが、心ここにあらずの状態でした。

時々しゃべる

新しい施設の雰囲気にも慣れてきた頃、「トイレの個室に入ると、突然話しかけてくる」ということが増えてきました。付き添った職員によって話の内容は様々です。

私の場合は当直の夜でした。就寝前のトイレ誘導、便座に座ったら突然話しかけられました。しっかりと私の目を見て満面の笑顔で、
Aさん:「しりとりするよ。まずはねえ‥‥ ウルトラマン!」

私  :「‥‥ 終わっているけど‥‥ 」
Aさん:「じゃあね‥‥ 首吊り! 」
私  :「なんで『首吊り』? 」
Aさん:「『な』じゃなくて『り』! 」

めちゃくちゃ驚きました。まず、目があったこと。笑顔がかわいいこと。文章を話すこと。しりとりのルールが分かっていること。驚きとうれしさをかみしめながら、しばし『しりとり』を楽しみました。

すらすらと文章を話すことも驚きですが、その内容もバラエティに富んでいます。若い職員とのやりとりでは、

Aさん:「昭和の『和』、『草冠』に結果の『果』、子供の『子』と書いて何と読む? 」
職 員:「‥‥ 和菓子? 」
Aさん:「正解です。よくできました」

漢字にも詳しかったのです。でも、普段の生活では、こちらの話しかけにうなずいたり、首を横に振ったりで意思表示してくれることは増えましたが、お話をしてくれることはありませんでした。


話をするタイミング

トイレでは話すけど、他では話さないことが続き、話してくれるタイミングがつかみきれないでいたとき、試しにお風呂の時間に話しかけてみました。脱衣所で、「『三水偏』に『羊』、『草冠』に結果の『果』、子供の『子』と書いてなんて読む? 」と問いかけましたが全く無視。ちょっと寂しい気分で入浴のお手伝いを始めました。

他の方の入浴が済み、最後に出てきたAさんは、いつものように椅子に座ってゆっくりと体を拭いていました。脱衣所には私だけでした。と、突然、

Aさん:「さっきの問題の答えは、『洋菓子』! 『三水偏』に『羊』を昭和の『和』に変えると『和菓子』! 」
私  :「すごいね! 」
Aさん:「学生の時、ポートボール部だったの。背番号は『21』番。補欠の番号だけどね」
Aさんには、話したいことが沢山あると実感しました。

後日、面会に見えた親御さんにこのやりとりをお話ししました。昔はよく話し、運動やダンスが大好きで、学生時代は『漢字博士』と呼ばれるほど漢字に興味を持っていたそうです。家庭の事情で環境が変わり、会話も減り、表情も無くなっていくことがとても辛かった。自分から話しかけることができたのですね。と、とても喜んでみえました。

知的障害者Aさんのオリジナルコミュニケーション術 まとめ

Aさんが話をする時は、決まって職員と二人きりの場合です。トイレの個室に入れば、必ず付き添いの職員と二人きりになります(一人で入ると自慰行為にふけり、後始末も不完全なため、職員の介助が必要でした)。トイレの時間(T)、トイレの個室(場所)、職員と二人きり(場合)というAさんオリジナルのTPOで、話すタイミングを決めていたと思います。初めての施設で、話したくても誰に話したらいいかわからない。そんな時、確実に二人きりになるトイレが話す場所として選ばれたのでしょう。介助の職員は同じではないので、いろんな職員に話しかけ、反応を見ていたのかも知れません。

私たちが「TPOにふさわしくない言動」と思っても、ご本人にとっては「今しかない絶妙のタイミング」なのかも知れません。見落としてしまったら実にもったいない。

そぐわない場所で、そぐわないことが起こったら、それは小さな発信でも大きな意味を持つ、『オリジナルTPO』かもしれませんよ。

(執筆 Radius)

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社会福祉士
障害者福祉の現場を離れて10年になる。
知的障害者が「精神薄弱者」と呼ばれていた時代から勤務。措置制度から契約制度への移行も経験する。相談業務、日常生活支援、余暇活動支援、就労支援、一人暮らし支援等多くのサービス提供に携わってきた。
長い現場での経験から学んだことは「感じる」大切さだ。「考える」だけでは見えないことも、「感じる」アンテナが働けば展望が開けることもある。
私が実践してきたことが、今現場で試行錯誤している職員の皆さんの参考になればと思う。